テーマ音楽も無し。解説も無し。ただ、当たり前に繰り返されている日常を切り取ってつなげた作品。
わたしたち動物は、他の生物を殺して、場合によっては切り刻み、さらに場合によっては煮たり焼いたりして食べることによって生命を維持している。でも、ニンゲンが食べるモノは、その生命感が失われている。失われているというよりも、丁寧に消去されている。『こだわりの5等級牛』とさらりと発言しても、じつは何百Kgもある牛が殺され、バラされている現実からは目をそらして暮らしているのです。たぶん、そこに一石を投じた映画なのではないかと思います。
ニッポンでの映像はありませんでしたが、この映画は「21世紀初頭の、ヨーロッパ地方での農業」という100年後の社会的資料としても役立ちそうです。「あー、21世紀初頭には、まだこんなことして暮らしてたんだな」って未来のヒトが見て思うかもしれません。あるいは「なーんだ、21世紀初頭と変わらない暮らしをしているのだな」って思うのかもしれません。
農業漁業をはじめ、食料関係従事者は努力したり労働したりしているのです。その努力や労働があるおかげで、消費者は食料を購入し飲食できるのですね。消費者はもちろんですが、飲食業や食料貿易に携わる方々に観てもらいたいです。あのタイヤ屋が偉そうに出版しているレストランガイドに掲載されて☆がいっぱいくっついているような店で食べる高級料理も、元は生命体だったんです。知らないヒト多いと思いますけど。
また、冗談でよく「イマドキの子供は、魚は開きや切り身で泳いでいると思っているらしい」とか言ってるオトナたちにも観てもらいたいです。それから、いただきますを言うの言わないのと絵空事とか机上の空論が好きなニッポン人にも是非観てもらいたいです。その議論、ホントに無駄だということがよくわかりますので。
できることならば、中学生や高校生にも観てもらいたいです。貪り食べるゴミみたいなファストフードだって、実際には元は生命体だったのです。気づいてないかもしれませんが。
ところで、解説も無いし、音楽も無いし、衝撃的な効果音すらありません。そして、「話には聞いてたけど……」でも知らないことが映像で、あまり偏りも無く見ることができます。
たとえば、手摘みのオリーブは高級品ですが、どうして手摘みは高級なのか。→それは、現代農法ではオリーブは手で摘まないからなのですが、では、手で摘まないオリーブはどうやって収穫しているのか? 答えは作中にあります。話には聞いてたけど、すごい。これを考えたヒト、オリーブ農家に感謝されたかもしれません。
穀物だって今では収穫は殆ど機械化されています。麦も芋も(ニッポンでは米も)。でも、どうしても手で収穫しているものもありました。答えは作中にあります。あんなに労働者を雇って、賃金が出るのだろうか? と思う反面、「どうりで高いわけだ」と納得しちゃったりする自分も同時に存在していました。
ちなみに、ニッポンの同名の著書「いのちの食べかた」を映像化したものではありません。念のため。……偶然同じタイトルになったわけではなく、邦題は森達也さんの著書から採ったそうですけど。
なお、高崎での上映は、1月18日まで(予定)。
いのちの食べかた
- 2005年 オーストリア=ドイツ 1時間32分
- 監督:ニコラウス・ゲイハルタ
1972年生まれですって。
ロマンスもサスペンスもありませんけれども、今世紀中に見ておきたい映画100選に加えておきましょう。