まずは、世に名だたる彫刻を集めたとある施設のトイレ内部の様子をご覧いただきたい。
日本での表記は「〜ではない」という表示が多いのが特徴。「ゴミ捨て場ではない」とか「出口では無い」とか、違いますよーと教えてくれるのだが、ではどう行動したらいいのかわからない。正しいゴミ捨て場はどこなのか表示が無いし、出口はどちらなのか教えてくれない。
そしてこの表示はどうか。
それほどまでに緊急通報ボタンが重要だというわけではないのではないか。実際には
- 水洗ボタンと間違えて呼び出しが押されて面倒くせえなコンニャロ
- これは非常時にだけ使ってくれ
という宣言だろう。
本来ならばこうあるべきだ。
- 水洗ボタンはこれだ
- 緊急通報ボタンは赤色でSOS
これが世界のゲージツの現場です。作家本人やその取り巻きのみなさんが作品の手入れをしに来るし、ゲージツを愛する皆様も数多く訪問することでしょう。それほどまでにゲージツ気取りな施設でも、トイレの表示は田舎の道の駅と変わらないのです。
これは、すぐれたゲージツの才能が集っても、商工業デザインには全く干渉しないことを表しているものと感じます。
ゲージツとは
時々、〆切に追われる芸術家を見かけることがあります。何に締め切られるのかはよくわかりませんが、コンテストの応募期間だったり、納期だったり、様々でしょう。しかし、〆切に追われた時点でそれはすでに芸術行動ではなくただの商業行為でしかないのです。
優れた芸術作品が売買されてるじゃないか。でも売買するのは売買屋ーのみなさんであって芸術家ではないのです。
芸術家は真情の発露を自らの感性と技術と経験と知識において実物を作りあげるのです。そこには納期はありません。芸術家本人が完成と言えばそれが完成であり、未完であると言えばそれはいつまでも未完なのです。納期なんかありません。
また、芸術は芸術家の真情の発露でしかないので、それを見てピンとくることもあれば、意味がよくわからないことも多々あります。説明されても全く理解できないことすらありますが、理解されるかどうかは芸術の観点ではありません。ただし広く受け入れられたものは高く評価されるというだけのことです。芸術は作家の死後数百年経ってから評価されることだってあるのです。
表示は芸術ではない
一方、トイレのスイッチの説明表示は芸術であってはなりません。パッと見て瞬時に意味が理解されなければそこに存在する意味が無いのです。そういう意味においては、例示したこの表示はまさに芸術的であると言えます(芸術だとは言ってない)。
誰かの感性と技術と経験と知識が、このような分かりづらく使いにくいUIを作り出し、そして意味が通じない(笑)。トイレという機能から汚物を流して立ち去るという行動を制限する工業デザインだ。
ピカピカ光るスタイリッシュ()なデザインのスイッチ群から少しはずれて、出来合いのどんくさくも色が付いたスイッチがあれば、目が行きますね。緊急通報ボタンとしては優秀だけど、トイレの基本性能が満たされていなければ困ります。
- パッと見て意味がわかる
- 深く考えずに間違わず行動できる
こういうのが工業デザインとして優れている表示です。
現状の問題点
簡単に列挙するとこんな感じでしょう。
- スタイリッシュすぎて見逃しがち
- 呼び出しボタンの方が目立っている
細かく言えば、落ち着いた雰囲気を演出したいのか費用を抑えたいのか、なぜか黒色になっているスイッチは「水を流す」をイメージしやすい色調で、かつ目立つ輝度・彩度が望ましい。また、いざというときに使いたい呼び出しボタンは赤色等とし、普段は触りたくないようなデザインに。この2つを改善するだけで、だいぶ様子が変わってくるのではないかと思います。
そもそも、スイッチの中にあるアイコンが、全く意味が通じない。
何案か作って社内アンケートでもとったのかもしれないけれど、よほど善意に考えないと「水洗/FLUSH」には見えない。どうしてもアイコンにしたかったのかもしれないけれど、共通認識が少なすぎるので文字による表示でもよいのではないか。どうしてもアイコンを付けたいなら、もっと「流れゆく様」を表した方がよいのではないか。
テイストがそろわないから厭なのでしょう。しかし、作り手の希望をそのまま形にするのは芸術的だけれども、工業デザインは使い手を基準に考えるべきなのです。カラーも形状も、他とテイストが違う「呼出」はなぜ押されるんでしょうねw
フォトPが考える、あるべき姿
フレームはおそろいとしても、表示は異物感があった方がいいし、できれば円い部分だけではなく、青い部分が全面的にスイッチになっているとよろしいかと思います。というか、なぜレバーじゃダメなんでしょう。たしかにレバーをひねる方式は、ユニバーサルではない。